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失われし者たちへ捧ぐ小奏鳴曲 · 第3章

帰郷

ロベルタ

よし、結論から話すわね。

私もドッペルゲンガー騒動のきっかけを作ったのは、この黒い本で間違いないと思うよ。

クレア

やはり…そうですか。

ロベルタ

でも、これまでの災いと同じ類いかと言われると…

どうも違う気がするのよね。

クレア

え?何か違う点でもあるのですか?

ロベルタ

まず、観測士は基本的に事件が起きる前から動くものなの。

前兆が現れる前じゃなくても、災いへ発展する余地があるなら…

観測された情報をもとに、真っ先に動くのが私たち観測士よ。

ところが、キャンドル・スクエアで災いに繋がるような前兆が観測されたことはなかったの。

クレア

…ふむ、そうですか…

ロベルタ

もちろん観測情報は急変することもあるから、もう少し様子を見る必要はあるけど…

それでも、キャンドル・スクエアができてから、今まで災い級の事件なんて一度も起きてないでしょ?ふふ。

それは、きっと立派なメイド長が徹底して気を配ってくれているおかげでしょうね。

クレア

今は、あくまでメイド長代行ですので。

前任のメイド長が築いてくださった土台の上で…最善を尽くしているだけです。

ロベルタ

ふふ、分かった。危機感が薄いって言われたら返す言葉もないけど、そこまで深刻な話じゃないよ。

私の勘は結構当たるの。余計なことまで当てちゃうのが玉にきずだけど。

まあ…だからって、キャンドル・スクエアを放っておくつもりはないけどね。

恐ろしい災いの類ではないと推測しているだけで、奇妙なことが起きているのは事実だから。

調査も兼ねて、この黒い本はこっちで預かるわ。それでいいかな?

クレア

はい、もちろんです。ご協力ありがとうございます、ロベルタ様。

ロベルタ

ふふっ、このくらいどうってことないわ。後で連絡して詳しく──

ルー

失礼します。リーダーはいらっしゃいますか?

ロベルタ

ルー?どうしたの、こんなところで…

ルー

リーダー、急ぎの報告です。少しこちらへ。

ロベルタ

…急にどうしたの?

ロベルタ

えっ!?そんな…

…はあ…まったく。

すぐ出るから、出動準備を。

ロベルタ

クレア、ごめん。出動しなきゃいけない緊急事態が発生したの。

私が戻るまで、本の封印を任せてもいいかな?

クレア

ええ、構いませんが…

ルー

ご協力ありがとうございます、クレア様。

突然お邪魔してしまい、申し訳ありません。

クレア

いいえ、お気になさらないでください。

むしろ、お礼を申し上げるのはこちらの方です。

では、本は再び封印しておきます。

ロベルタ

ありがとう、クレア。

…よし。私たちはすぐ出るよ。

ベル・リース

あの人たち、何だったの?

二人とも真っ青になって、慌てて走っていったけど。

クレア

急ぎの案件が発生したとのことでした。

何が起きたのかは伺えませんでしたが…

軌道捜索隊第3チームの方々が戻られるまでは、調査も足踏み状態になりそうですね。

ベル・リース

…ふーん、そう。

へえ、それが例の黒い本って、やつなのね。

本当に名前の通り、真っ黒ね。

クレア

ああ、そういえばお見せしていませんでしたね。

ロベルタ様がいらっしゃる前に、もう一度開けてみようとしましたが…相変わらずびくともしませんでした。

何が書かれているのか分かれば、調査も進めやすいのですが。

ベル・リース

…びくともしない?ちょっと貸して。

…待って。

これ、まさか…

クレア

…ベル様?

ベル・リース

クレア、これどこで見つけたって言ってたっけ?

クレア

最初に発見された場所は蔵書館だと伺っています。

その後、メイド長室の金庫へ移して保管していましたが。

ベル・リース

クレア、よく聞いて。この本は…

リース家の術式で封印されている。

それも比較的最近のものね…5年も経っていないはず。

クレア

封印…?それもリース家の術式で、ですか?

ベル・リース

はっ、どうりで覚えのある気味悪い気配がすると思った。

その根源が、この不気味な本だったってわけね?

クレア

ご覧になっただけで分かるのですか?

ベル・リース

見て、ここの背表紙。黒い表紙の上に黒いインクで封印術式が書かれているでしょ。

これはリース家の者が封印術をかける時のやり方よ。

基本的には術をかけた本人しか開けられないようになっている。鍵をかけるのと似たようなものね。

クレア

なるほど。こういう方法があると知っている人でなければ、気づきにくいでしょうね。

封印をかけた人と本の持ち主が同じなら、この本の持ち主はおそらくリース家の…

ベル・リース

私の物じゃない…持ち主は、私たちがよく知っている人物ってことになるでしょうね。

クレア

…

ですが…カネリア様が姿を消された後、あの方が残された品の中に、この本はありませんでした。

もし本当にあの方の本だとしたら、なぜ今になって突然現れたのでしょう?この中に何が書かれているのでしょうか?

ベル・リース

ふん、それは今から調べればいいことじゃない?私がこの術式を解除すれば──

クレア

待ってください、ベル様!

この本は今回の事件の鍵を握っている可能性が高いです。

それに、中に書かれている内容がどんなものかも分かりません。

慎重を期すなら、軌道捜索隊第3チームと一緒に開ける方が──

ベル・リース

クレアもそう思ってるんでしょ。

クレア

…

ベル・リース

姉はもう行方不明なんて呼べないでしょ、クレア。

あれだけ堂々と私たちの前に現れたんだから。

ならば、なぜお姉ちゃんがあんな姿で現れたのか──

理由があるなら、どうしてあんなふうになったのか知りたいと思わない?

クレア

…もちろん知りたいです。

誰よりも知りたいです。ですが…

ベル・リース

…クレアが知っている姉とは、まるで違う…今まで知らなかった姉の姿を知るのが怖いの?

クレア

…

ベル・リース

…やっぱりそうなのね。

クレア

きつく言われるものかと思いましたが…何もおっしゃらないんですか?

ベル・リース

普段の私なら、クレアに一言言ういい機会だったけど──

アガノンへ向かう前の私も、同じだったから。

姉にもう一度会いたいと思いながらも…

同時に、怖くもあったのよ。

クレア

ベル様…

ベル・リース

クレアがためらうなら、私だけでも開けてみせる。

この本の持ち主が、姉じゃなくても構わない。

リース家の術式だと分かった以上、黙って見ているつもりはないから。

駄目だと言われてもやるわ、だから止めても無駄──

クレア

いいえ、一緒に開けましょう。

ベル・リース

…え?

クレア

これはキャンドル・スクエアの中で起きていることです。

私情を理由に、この確認から目を背けるわけにはいきません。

そして、カネリア様がどのような方だったのか…

…どうしても知りたいのです。

お願いします、ベル様。

ベル・リース

…分かった。

始めるよ。

この程度ならすぐ解けるはずよ。

…ん、あれ?

これはどういう──

うっ…!

クレア

ベル様?急にどうしたのですか?

ベル・リース

大丈夫…!ちょっと驚いただけだから!

くっ、ううっ…!

何よ!?急に…変な力が…

気をつけて、クレア!

クレア

ベル様!どうなっているのですか!

ベル・リース

しまった…!

クレア!よく聞いて!この本の中にあるのは──!

クレア

…ううん…

…ベル様…

ベル様!?

クレア

ここは…キャンドル…スクエア…?

何が起きたの?ベル様はどこへ…

いったい何がどうなって──

???

…クレア?

クレア

…

…カネリア様?

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