失われし者たちへ捧ぐ小奏鳴曲 · 第2章
波乱

スカーレット
なにぃー!?
ド、ド、ドドドドドッペルゲンガー!?
大きな音がしたから駆けつけてみれば、そ、それはいったいどういうことなのだ!
クレア
…もちろん、私の見間違いかもしれません。
幻を見た可能性もありますし…
ベル・リース
でも、誰かを見たってことに変わりないんでしょ?
しかも、他の誰でもなく、もう一人の自分を。
クレア
…はい。最近、どうにも体調が優れないので断言は難しいのですが…
その通りです。
私が見たのは、間違いなくクレアでした。
スカーレット
ならば…クレアと戦ったのか?
クレア
とっさに掴んだものを投げつけたら、消えました。
スカーレットの足元に転がっている割れたカップが、その証拠です。
スカーレット
ん?カップ?
…あ、本当なのだ。
…うーむ、クレアが何人も…ううむ…
クレア
スカーレット?
スカーレット
はっ!?な、何でもないのだ!
またこんなことが起きたら、このスカーレットが解決してやろうと考えていたのだ!
…こ、この割れたカップは、わがはいが片付けてこよう!
ゆっくり話しているがよいぞ!
ベル・リース
…あのトカゲ、様子が変ね。
クレア
放っておきましょう。問題を起こしそうな感じではありませんし。
エミリー
クレア殿、念のため申し上げますが…
この事件、軌道捜索隊の方々に協力をお願いしてはいかがでしょうか?
カライド任務でも、今回の事件と似た現象がありまして、その際あの方々に助けていただいたことがあります。
最近は、NOA周辺で起きている怪事件を追跡している…とのことですが。
クレア
たしかに、チクシュルーブ・ホール事件から継続して調査中だという話は、私も聞いています。
…それにしてもエミリー、珍しく物覚えがいいですね。
最近また、トリッシュ様と狩猟依頼をご一緒したそうですが、効果があったようです。
エミリー
鋭いですね、クレア殿。
ベル・リース
ちょっと待って。
外部の助けを借りるのもいいけど、その前にまずは私たちで調べてみるべきじゃない?
クレア
もちろんです。私だけに起きた怪現象という可能性もありますから。
できるだけ大きな騒ぎにはしないでください。
それとなく聞き込みをしてみて、もし新たな証言が得られないようなら──
ハプニングとして片付けてもよいか、もう一度考えてみましょう。
ベル・リース
じゃあ、何か手掛かりが見つかったら?
クレア
…その時は、軌道捜索隊との協力を本格的に検討してみましょう。

メイドA
夕食当番を終えて、やっと少し休める~と思いながら蔵書館に寄ったんですが…
…え?なぜ蔵書館に行ったのか、ですか?
こほん!そ、それは秘密です!
と、とにかく…そうして蔵書館で時間を過ごしてから部屋に戻ったんです。
ところが、明かりの消えた部屋に人影があったんです。
最初はルームメイトだと思って、どうして真っ暗なのに電気もつけないんだろう?と思いながら明かりをつけたら──
そしたらなんと、私と瓜二つの誰かがこっちを見ながら、ぞっとするような笑みを浮かべていたんです!

メイドB
うう…もう、思い出したくもありません…
あの広い蔵書館の埃を払い、窓も拭き、蔵書リストも更新して…
蔵書館担当の方と二人でへとへとになるまで働いて、ようやく一緒に上がりました。
それから部屋に戻って、早くシャワーを浴びて寝ようと思ったところで…
何か変でした。シャワールームの方から水音が聞こえたんです。
仕事に出る時に止め忘れたのかと思って急いで行ってみたら、シャワーが出っぱなしで…
そしてその時、鏡を見たら…私の後ろにもう一人の私が…!!

クレア
…ドッペルゲンガーの目撃談と体験談が相次いでいます。
しかも、蔵書館担当だったメイドは昨日、気絶した状態で発見され、病院へ運ばれました。
…私だけに起きた一件で済めばよかったのですが…
こうなった以上、何らかの問題が起きていることは間違いありません──
スカーレット
ひっく…ぐすっ…
クレア
…スカーレット、話は終わりましたから、そろそろエミリーから離れてください。
スカーレット
…はっ!わ、わがはいがいつエミリーにくっついていたと言うのだ!
エミリー
正確には、明かりの消えた部屋の話が始まってから約6秒後ですね。私の腕にしがみついていました。
ベル・リース
今がロウソク囲んで怪談話するような時間だとでも思ってるの?
まったく、みっともないにも程がある。
エミリー
クレア殿、ご指示通り捜索軌道隊──
クレア
軌道捜索隊。
エミリー
…はい、軌道捜索隊第3チームに連絡いたしました。
クレア
本当に連絡したんですか?
エミリー
たぶん、連絡したはずです。
クレア
…狩猟依頼の効果、もう少し長かったらよかったのに。
はあ…もう結構です。軌道捜索隊第3チームとの協力については、私が改めて確認しておきましょう。
ともあれ、今はそちらが本題ではありません。
まずは、キャンドル・スクエアで発生しているドッペルゲンガー騒動について、特徴を整理してみましょう。
証言の内容には多少の違いがありますが、共通して見られる特徴は──
私を含めた全員に、蔵書館、または黒い本との接点があることですね。
ベル・リース
例の黒い本は、今どこにあるの?
クレア
執務室の金庫に入れて、誰も触れられないように保管してあります。
事件の発端である可能性が高い以上、さらなる被害は防がなければなりませんから。
事がこれ以上大きくなるようなら、蔵書館や執務室の閉鎖も検討します。
エミリーが言った通り、軌道捜索隊第3チームに協力を要請する予定ですし…
それまでは、キャンドル・スクエアがあまり騒がしくならないことを願うばかりですね。

観測士A
つまり…不審者がこの近くに現れた、と?
観測士B
はい、そうのようです。特筆すべき観測情報はありませんでしたが、市民からの通報は無視できませんので。
観測士A
ここは…NOAの神聖なる防壁の境界付近だな。
こんな辺境の地まで何をしに来たんだろう?もう少し先へ行けば、空虚体が現れてもおかしくない場所なのに。
観測士B
逆に人目が少ないという理由で、わざわざ来る人たちもいるそうですよ。カップルとか…
観測士A
そうなのか?いったいなぜ…いや、考えるのはやめよう。
観測士B
そういう事情もあって、タウンガードが定期的にパトロールしているルートだと──
…え?
せ、先輩!あそこ、神聖なる防壁の向こうに人が…
観測士A
何だと?
お、おい!
あんた!そこで何をしているんだ!?
カネリア
…
観測士A
手に持っているものを置いて、こっちへ来るんだ!防壁の外は危険だから、戻って──
くっ…!?う…
観測士B
あ、あなたは…かはっ…
カネリア
ごめんなさい。けれど、これしか方法がなかったのです。
少し眠っていてください。目を覚ます頃には…すべて終わっていますから。

カネリア
…
…気のせい、ですよね。
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