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黒い雪原と不協和音のデュエット · 第4章

ウェンディゴ狩り

エミリー

…本当ですか?

御者

あぁ、本当だよ。

昨日俺たちが通ってきた裏道も、一晩中降った雪のせいで完全に埋まってしまったらしい。

はぁ…!御者になって20年だが、あの道が塞がるのは初めてだよ。

今回の吹雪は、本当にただ事じゃないみたいだ…

エミリー

…ふぅ。分かりました、仕方ありませんね。

道を通れるようになるまでは、クレア殿の言うとおり温泉で偵察任務を──

トリッシュ

よっしゃ!ここからここまで全部くれ!

エミリー

うむ?

怪しい商人

あら、お目が高いお客様ですね。

トリッシュ

ははっ!当然だろ。

一流ハンターたる者…!一目で良いものを見抜く!

怪しい商人

では、この呪物(チャーム)はいかがですか?

この品はですね…

中西部の砂漠地帯にある、オアシス付近に住む賢者から手に入れた物でして──

なんと、星の救援者が悪に立ち向かうために身に着けていた物だと言われています。

仲間たちと分け合うために、複数あったと伝えられていますが…

残念ながら、私の手元にあるのは二つだけです。

トリッシュ

おぉ…伝説に出てくるアーティファクトか?

スゲーな!

見た目もクールだし!真ん中の宝石が青々と輝いてんのが最高だぜ!

それ、二つともくれ!金なら十分あるぞ!

怪しい商人

んふふっ。さすがアセルス協会の一流ハンター、素晴らしい目利きです。

では…よい取引でした。んふふっ…

エミリー

トリッシュ。

トリッシュ

ん?エミリーか。まだ戻ってなかったんだな。

エミリー

はい。吹雪のせいで、NOAに戻る道がすべて塞がれてしまったそうです。

ところで、そのカバンの中身は…何ですか?

トリッシュ

おっ、これか?今回の狩りに必要な道具だよ!

エミリー

…すべて、本当に必要な道具なのですか?

トリッシュ

うん。何か問題でもあんのか?

エミリー

…はい。自分の目には、問題だらけに見えますが。

トリッシュ

うげっ…!?

エミリー

この保温ブランケット、柄が派手なだけで生地が粗悪です。

こんなものでは、寒さをきちんと防げません。

それに、この頼りない罠は何ですか?小さなネズミでもこんな罠にはかかりませんよ。

トリッシュ

うう…これでもオレは狩りのプロなんだぞ。

そ、それくらいオレも分かってんだ!ただ…クールだから買っただけで…!記念品みたいなもんなんだよ!

エミリー

…そうですか?

トリッシュ

そうだ!マジで役に立つ道具は、この中に入ってんだぜ!

たとえば…この半自動防水シューズカバーなんてどうだ?

雨を感知すると、ほら!サッと開いて、靴が濡れないようにしてくれるんだ。

どうだ?クールだろ?雨の日に大活躍しそうだろ?

エミリー

…トリッシュ。

トリッシュ

う、うん?

エミリー

カライドでは雨は降りません。降るのは雪です。

積もった雪道での移動が心配なら、それより普通のかんじきの方が実用的です。

トリッシュ

くぅぅぅ…!

じ、じゃあ、シャイニングゴールドワイヤー捕縛銃リミテッドエディションはどうだ?

こうやって狙いを定めて発射すれば…!

装填されたワイヤーが自動でターゲットを拘束するんだぜ!

どうだどうだ?マジで使えそうだろ?ウェンディゴを見つけたら、これで拘束すればいいんだよ!

しかも…発射機とワイヤーは、純金メッキになってる特別限定品らしいぞ!

エミリー

…どうして純金メッキが必要なのか分かりませんが。

トリッシュ

うぐっ…くぅっ…!

エミリー

それにワイヤーが短いため、自分より大きなターゲットには使えないでしょう。

トリッシュ

…ちぇっ!ダメ出しばっかだな!

エミリー

戦術装備は、できるだけシンプルで頑丈なものが良いとされています。

見た目だけで信頼性の低い装備を揃えては、後悔することになるかもしれませんよ。

それに、購入元も怪しい物ではないですか?

先ほども、怪しさ極まりない行商人からたくさん購入されていましたが。

戦術装備を購入する際は、常に実戦での有用性が認証されたものを、信頼できる販売者から──

トリッシュ

うあーーっ!小言はそのくらいにしてくれ…!

それより…すぐにはNOAに戻れないんだよな?

ちょうどよかった。時間があるってことだろ?なら、オレと一緒に狩りに行かないか?

エミリー

狩り…ですか?

トリッシュ

そうだ!二人でウェンディゴを仕留めにな!

コホンッ!もちろん、エミリーはあくまで手伝いだぞ。仕留めるのはこの一流ハンター、トリッシュ様だ!

エミリー

自分がお役に立てるのでしょうか?

トリッシュ

ふっふっふ…当然だろ!一流ハンターたる者…仲間を選ぶ目は確かである!

まぁ、エミリーとオレは…戦い方のスタイルはちょいと違うけどさ!

この前、一緒に戦ったとき思ったんだよ。なかなかやるなってな。

エミリーが一緒なら、危険なウェンディゴ狩りの助けになるはずだ。

あっ、もちろん強要はしないぜ。今回の狩りは…マジで危険だからな!

ま、専門家のオレがいることだし、大抵のことは問題ないはずだ!

だが、カライドには…人間が一度も足を踏み入れてない未開のエリアがそこら中にあんだぜ。

ウェンディゴを探し出すまでの道のりも、絶対に簡単じゃないはずだ。

それに、一番危険なのは…

エミリー

…?

トリッシュ

ウェンディゴそのもの。

伝説の魔獣ウェンディゴ。大雪原の奥深くに棲む、強力で恐ろしい魔獣。

まれに目撃されることもあるが、今までウェンディゴを倒した奴はいない。

でも…もし成功すれば、とんでもない懸賞金と名誉が手に入るんだぜ!

だからハンターにとって、ウェンディゴ討伐は一生に一度の夢ってワケなんだよ。

どうだ?一緒に行く気になったか?

エミリー

強力な魔獣…それはつまり…雪原での危険な決闘…

…ゴクリ。

トリッシュ

お前…手が震えてんぞ?もしかして怖くなったのか?ははっ、怖いなら仕方ねぇな。

エミリー

いいえ。ご一緒させてください。

トリッシュ

はははっ!よっしゃ、決まりだ!

ウェンディゴが目撃されたのは、北西の大雪原ってとこなんだが──

細かい話は、移動しながらしようぜ!

エミリー

…トリッシュ。

トリッシュ

えーっと…地図によると、ここで北を向けば丘が見えるはずなんだが…

ちっ…丘なんてどこにあんだよ!雪のせいで地形も把握できな──

エミリー

トリッシュ。

トリッシュ

…ん?聞いてるぞ。

エミリー

もう日が暮れてきました。日没後の雪原は危険だそうです。

まずは夜の寒さを凌げるテントを張り、燃料を探すべきです。

トリッシュ

オレも分かってる…!分かってんだけどさ…

オレの勘だと…ウェンディゴの本拠地にかなり近づいてる気がすんだよ。

ほら、さっき見ただろ!あのデカい足跡!それに、木に残ってた爪痕も!

この辺が、アイツのテリトリーってのは間違いねぇ…!

せっかく痕跡を見つけたってのに、夜の間に雪が降ったらぜんぶ消えちまうかもしれないだろ?

あとちょっとだけ!もうちょっとだけ探してみようぜ。な?

エミリー

…確かに。その意見も一理あります。

ですが、準備なしに雪原の夜を迎えるのは無謀であることも事実です。

トリッシュ

じ、じゃあ両方やればいいだろ!

エミリー

両方…ですか?

トリッシュ

エミリーはここで野営の準備をしてくれ。

その間にオレは、この辺をもうちょっとだけ見てくる。成果がなかったらすぐ戻ってくるからさ。

遠くまでは行かねぇ!エミリーとすぐ合流できる範囲で調べてくるよ。

もしウェンディゴを見つけたら笛を吹くから、そのとき合流してくれればいい。

どうだ?いいアイデアだろ?

エミリー

うーん…分かりました。ただし、あまり遠くへは行かないでください。

急に吹雪でも吹いたら、視界が狭くなりますから。

トリッシュ

ははっ、心配すんなって!一流ハンターたる者!一度口にした約束は必ず守る!

じゃ、準備は頼んだぜ!すぐ戻るからな!

エミリー

…あの。トリッシュ?

トリッシュ

ん、なんだ?まだ信用できないのか?

一流ハンターの名にかけて、嘘つきみたいな真似はしねぇって!

エミリー

そうではなく…トリッシュが動く必要はないように思えます。

トリッシュ

どういう意味だ?さっきは分かったって言ってくれただろ?また気が変わったのか?

エミリー

いいえ。本当にトリッシュが動く必要がなくなったんです。

自分の記憶が正しければですが…ウェンディゴというのは、こんな姿でしたよね?

トリッシュ

ん…?

…!?!?

魔獣

グルルル… グルル…

グアァァァ―!

トリッシュ

ちっ…!来るぞ!

エミリー

…戦闘準備。

エミリー

トリッシュ、背後に気をつけて──!

トリッシュ

分かってる…!

エミリー

大丈夫ですか?

トリッシュ

…おう、平気だ!

アイツ、破壊力はスゲーが動きは思ったより鈍いな。

これまでの蓄積ダメージを考えたら、次の一撃が最後になるはずだ!

さ、エミリーは楽に見ててくれよ!

ウェンディゴを初めて仕留めるハンターは、このオレだからな!

行くぜーっ!

ははっ!大人しくしてろって!

すぐに仕留めてやるからよっ!

一流ハンターたる者!慈悲深く獲物を一撃で仕留めるべし!

エミリー

トリッシュ!そっちは雪がかなり積もっています!

斜面も急ですから、強い衝撃を与えるのは危険──

トリッシュ

ははっ!それぐらいオレが調整するから心配いらねぇよ!

おわっ!鼓膜が破れちまいそうだ、静かにしろー!

大人しく倒されることだな!

まずは一発!

…あれ?

いまの光、なんだ?

首から何か落ちてきたぞ?

石ころ…?

エミリー

トリッシュ!上です!

トリッシュ

ちっ…!危なかったぜ。ありがとな!

今度こそ、最後の一撃だ──!

ふう……!

よっしゃ!やったぞ!

一流ハンターのトリッシュ様が、魔獣ウェンディゴを倒したぜ!ははっ!

ふーん…ってかさ……

コイツ、本当にウェンディゴなのか?

思ってたより…だいぶ楽に倒したぞ?

見た目も…こうやって近くで見ると、普通のクマに見えなくもないし?

うーーん…

エミリー

トリッシュ。

トリッシュ

ん?

エミリー

危ないところでしたよ。

あなたの戦い方は本当に…

トリッシュ

ははっ!小言は後にしてくれよな。

今はこの勝利を味わいたいんだよ。

とにかく、オレらの勝ちってことだろ?

エミリー

…ふぅ。分かりました。

ひとまず、無事に夜を越せるように準備しましょう。

戦闘でかなり時間を使ってしまいました。

キャンプの位置も…少し移した方がよさそうですね。

戦闘中に少し確認してみましたが、この辺りは雪崩の危険がありそうです。

最初は平原かと思いましたが…実際には、雪が高く積もった斜面だったようです。

トリッシュ

よっしゃ、分かったぜ。

ウェンディゴの死体は…明日回収すればいいよな?

エミリー

…トリッシュ。今、何か音がしませんでした?

トリッシュ

…おかしいな。

たしか、あっちにウェンディゴが倒れてただろ?

どこ行ったんだ…

エミリー

…あそこですね。

トリッシュ

え、ええっ? 転がってくぞ!

エミリー

危険ですね。あんな重いものが、不安定な雪の塊にぶつかりでもしたら…

トリッシュ

たとえば…あんな風にか…?

エミリー

…雪崩が起こります。

トリッシュ

おわぁーーーーっ!!!

エミリー

手をしっかり掴んでください…!

巻き込まれます!

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