Lost in Summer! 運命のパラダイス · 第4章
サメ注意

アイラの依頼を引き受けた私たちは、早速「海賊王の宝」を探しに新たな冒険へと旅立った。
ルナ
…
…
ルナ
…つまり、マジでこんな場所にお宝があるってコト?
スマイル
確実。地図が示す場所、つまり──
地図の手掛かりを聞くなり場所がわかったと私たちをここへ連れてきたスマイルが、胸を張った。
スマイル
「廃船処理場」。
…だからどうして!?
スマイル
宝の地図には、特定不明の位置情報と二つの文言が記されている。
一つ目は、「船たちの最後の終着地」。そこにある「月の文様が刻まれた石」の下を掘り起こせというもの。
アイラ
はい…それと二つ目は、「たとえ終わり定められし航路であろうとも進むことを選んだ者にのみ開ける、新たな道を探すべし」。
…と書かれています。
ルナ
あーね!だから「廃船処理場」が「船たちの最後の終着地」ってわけね?
スマイル
ルナでも理解できるくらい、シンプルな論理。
じゃあ、二つ目の文言は…?
スマイル
それは──
…
…まだ、推測不可能。
でも、ここで「月の文様が刻まれた石」を発見してその下を掘れば、答えがわかる可能性あり。
アイラ
なるほど…!わかりました。
では、早速探してみましょう…!
ジリジリ──
ルナ
あぁ~、暑い…
みんな、大丈夫?
鉄骨の隙間をくまなく調べていたルナが曲げていた腰を伸ばしながら、汗を拭った。
スマイル
…サンダルを履いても、太陽に熱せられた地面の温度を直接感知。
その後、私たちは何時間もこの一帯を隅々まで探し続けたが…
容赦なく照りつけるフローラの太陽の下、石一つを探すのは並大抵のことではなく、なかなか先へ進めなかった。
スマイル
フローラの平均気温は、NOAと比べると…10度以上高い…
正午に昼寝をする、フローラ文化の起源を推測可能…
アイラ
そうなんです…昼間は日差しが強くて、外で活動できないので。
ルナ
えぇ…じゃあアタシたちは、みんながお昼寝してる時間に外で動き回ってるってコト!?
プール清掃のほうが、まだマシだったかも…
スマイル
…すでに弱っているアイラの体力が、この炎天下に耐えられるか疑問…
…それと、私も耐えられるか…疑問…
アイラ
だ、大丈夫ですよ、私は…!
まだいけます…遅れたりしませんから、私のことは心配しなくて大丈夫です…!
アイラが青ざめた唇をわなわなと震わせながら言った。
脂汗をかき、顔色の悪さが、言葉とは裏腹に身体の限界を訴えていた。
少し休んでからまた探そう。
アイラも無理しないほうがいい。
アイラ
無理じゃないです…本当に大丈夫なんです。
それに、これ以上遅れれば…海賊団が追ってくるかもしれないですし…
その決意を示すように、アイラはぐっと力を込めて歩みを進めた。
ふらっ──
アイラ
うっ──
スマイル
アイラ…!
アイラ
す、すみません。今のは少し気が緩んだだけで…
ちゃんと歩けますから…
ルナ
…
スマイル
アイラ…無理は禁物…
先へ進もうとするアイラを、スマイルが引き留めた。
アイラの顔色は、さっきよりずっと悪くなっていた。
スマイル
前進するには、休息も必要…
アイラ
ゴホッ…!
ゴホッ、ゴホッ──!
その時、無理に足を踏み出そうとしたアイラが、激しく咳き込み始めた。
アイラ
ヒッ…!
スマイル
アイラ、血が…
ルナ
…ねえ、お嬢ちゃん。とりあえずあの浜辺に行って、手についた血を洗い流した方がよくない?
アイラ
でも、これ以上遅れたら海賊団が…
ルナ
このまま休まずに無理して歩く方が、ずっと遅くなるよ。
アイラ
…
ルナ
だからもう意地っ張りはやめて、ちょっと休んでから行こう、ね?
その後のことは、その後で考えてさ!
アイラ
…
スマイル
アイラ、大丈夫?
アイラ
はい、薬も飲んで咳も止まったので、すぐに良くなりますよ…心配してくださりありがとうございます…
ルナ
じゃあ、ここで少し休んでから、また出発しよう!
アイラ
…でも、本当にこうして休んでいて大丈夫でしょうか…?
最初に依頼を受けるか迷っていたのも日程が長引かないか、心配されていたことが大きかったんですよね…
もしかしたら、私のせいでかえって長引いてしまうかも…
ぺちん──
アイラ
いた…!
ルナ
その小さな頭で、考えすぎっ!
病弱なお嬢ちゃん、アタシさっき、こっそり未来を覗いてきたの。
アタシの「予知」によると、ここで少し休んでから行ったほうがこれから直面する危機を回避できる、唯一の方法なのよ!
アイラ
そ、そうですか?
ルナ
そう。だから嫌でも、ここでしばらく休んでから行くしかないってわけ。
じっとしてるのが、どうにも落ち着かないってなら…
うーん…あ、そうだ!
海から浮かび上がってくるホラガイ!それを拾う方が、お得よ〜。
アイラ
ホラガイ…ですか?
ルナ
そうそう、その中には役に立つ魔法のホラガイが紛れてることも結構あるのよ~!
スマイル
嘘。「魔法のホラガイ」なんて、非科学的で非合理的な迷信に過ぎない。
きっと子供をなだめるために、大人が創作した架空のおもちゃ…!
ルナ
ふ~ん、そう?本当にそうかなぁ?
もう少し待ってれば、あの辺りに青いホラガイが浮かんでくるよ、見てて!
スマイル
じー…
アイラ
じーーー…
不信感を拭えないスマイルとアイラは海を凝視し始めた。
そして、しばらくしないうちに、ルナの言葉通り青いホラガイが海の真ん中に浮かび上がった。
アイラ
ほ、本当でした…!
スマイル
…今回は嘘じゃなく、本当…!
アイラ
じゃあ、待っていれば、もっとホラガイが浮かび上がってくるんですか?その中に「魔法のホラガイ」があるかもしれないんですよね?
スマイル
…確率を考慮すると、今浮かび上がってきたあのホラガイも可能性あり。
浮かび上がってくる順に集めるのが、合理的な判断。
アイラ
わかりました、じゃあ私も見つけ次第拾ってみます…!

はしゃいだ顔で海に入ったアイラとスマイルは一つ、二つと水面に浮かび上がってくるホラガイを夢中で拾い集め始めた。
その様子を静かに見守っていたルナは、ようやく胸をなで下ろしたように息をつくと、砂浜へぺたりと座り込んだ。
ルナ
はぁ~。あの頑固なお嬢ちゃんをなだめるだけで、もうヘトヘト~。
それじゃ、アタシたちもここで休もうよ、団長。
…魔法のホラガイは、作り話…?
ルナ
ん~どうかな?まるっきり嘘とは言い切れないけど。
予知を見たのは本当だし…
その未来では、あの二人が海に入ってホラガイを拾ってたんだから!
もちろんそれが「魔法のホラガイ」かどうかは確かめようがないけどね~?
たぶんアイラを休ませてあげたくて、ルナなりに気を遣ったんだろう。
やさしい嘘だったんだね…
ルナ
「やさしい嘘」、ね…どうかな。
…それより、もう少し自分勝手な理由の方が近いかな。
「必ず失敗する結末」に向かって一生懸命進む姿を見てるほうだって、つらいのよ。
やっぱりこの前見たアイラの未来が、ずっと気になっているらしい。
…ルナが見たアイラの未来って──
正確には、どんな姿だったの?
ルナ
…言った通りよ。
だから…
…
ルナの視線が、海の中で楽しそうにホラガイを拾っているアイラへと向けられる。
しばらくそのままアイラの細い背中を見つめていたルナはやがて表情を切り替えると、こちらを向いて笑みを浮かべた。
ルナ
だから、失敗が決まってるなら…こういう瞬間くらいは、できるだけ楽しんでおいたほうがいいじゃん?
いつも通り屈託なく笑うルナを見つめた。
ルナが見た未来がどんなものだったのか、詳しくは分からない。だが、この冒険が「失敗が約束された未来」へ向かうだけなのだと信じてしまえば…
…その瞬間、前へ進む理由さえ失ってしまう気がした。
だったら、失敗しない結末を目指して戦えばいいじゃないか。
ルナ
うわぁ…団長、意外と純粋なこと言うじゃん…
うんうん。アタシもそういう時期があったよ。観測した未来が変わるかもしれない!って、期待を抱いてた時がね。
あ~あ、なんか懐かしくなってきちゃった~。あの頃の純粋なアタシ。
そうして、本当に過去を思い返すように、そっと顔を上げて空を見つめた。
ルナ
アハハ…こうして話してみると、依頼を引き受けたのって何だかおバカな選択だった気もしてきたし…
変わることのない未来と、幾度もの失敗を見続けてきたルナがここまで口にするのだから…
ルナが見たアイラの未来は、単なる「依頼失敗」では終わらないのか。そんな不安が、静かに胸をよぎった。
その時──
アイラ
わあ、スマイル様…ここにも、青いホラガイが浮かんできてますよ…!
スマイル
…やはり見逃せない。収集が合理的な判断。
アイラ
はい、じゃあ私が拾っておきますね…!
スマイルに確認したアイラが、海の真ん中にぷかぷかと浮かぶ青いホラガイへ向かって、まっすぐ歩いていった。
アイラ
スマイル様、拾いまし──
…あら?
ホラガイを拾い上げようとしたアイラが、ぴたりと止まった。
スマイル
アイラ?何か問題発生?
アイラ
あ、あの…うっ…
これ、どうしてこんなに…取れないの…うぅんっ!
スマイル
私も手伝う…!
ぽこんっ!
顔を真っ赤にしながら懸命に引っ張るアイラに、スマイルも力を貸す。すると、それまでびくともしなかったホラガイが、音を立てて抜けた。
アイラ
ふぅ…やりました…!すごい力…
もしかしたら、これが「魔法のホラガイ」かもしれませんよ!
スマイル
断言するにはまだ早い。
内部と大気の気圧差、もしくは水中の珊瑚礁に引っかかっていたなど理由はいくつかあると判断。
でも、確かに「魔法のホラガイ」の可能性もあり。
いったん、私のポケットに入れて──
スマイルが、アイラからホラガイを受け取ろうと、手を伸ばした瞬間だった。
ザブン──!
不意に大波が押し寄せ、スマイルとアイラを飲み込んだ。
スマイル&アイラ
ぷはっ…!
波にのみ込まれ、海水をまともに浴びたスマイルとアイラは水面へ浮かび上がると、大きく息をついた。
そして、二人の目の前には──
スマイル&アイラ
…?
白くて柔らかそうな、丸い物体がゆっくりと水面へ姿を現し始めた。
ゴゴゴゴゴ──
まるで氷山の一角がその全貌を現すかのように、水面下に隠されていた巨大な姿が次第に露わとなって、二人の前へ大きな影を落とす。
スマイル&アイラ
…
やがて全身を現した正体不明の巨大な物体は、ゆっくりとその身を回転させると漆黒の瞳が、スマイルとアイラを静かに見据えた。
???
…シュー…
アイラ
あっ…
喉を鳴らしたそれは、短いヒレを動かしてアイラの手にあったホラガイを取り返し、自分のお腹の上へ戻した。
満足したように目を細めたそれは、また目を丸くしてアイラをじっと見た。
???
シャーッ…
アイラ
ご、ごめんなさい…あなたのホラガイだって知らなくて…
???
…シャア。
しばらくの間、不機嫌そうな視線をアイラへ向けるともう興味はないと言わんばかりに背を向け、ゆっくりと遠ざかっていった。
アイラ
…さ、さよなら…
スマイル
危険を回避…
アイラ
はい、びっくりしました…びしょ濡れになってしまいましたね…
スマイル
私も全身濡れた状態。「地図」は無事?
???
…シャッ?
スマイル
紙は水に濡れるとすぐ破れる。水に入った「地図」は無事か心配。
アイラ
あ、「地図」なら…
アイラはにっこりと笑うと、大切そうに胸に抱いていた「地図」を取り出す。
スマイルの心配とは裏腹に、「地図」はどこ一つ濡れてなくさらりと乾いたままだった。
アイラ
この「地図」、呪いが封じられていた羊皮紙だからか水に濡れても平気みたいなんです。
???
!?
…シャー…
アイラ
ん?また来た…?
背を向けて離れていったはずのそれがいつの間にか、アイラのそばまで戻ってきていた。
アイラの手にある「地図」から目を離さず二人の周りをゆっくりと回り始めた。
???
…シュー…
アイラ
ど、どうしたの…?
???
グワ…
ガアァァー!!
アイラ
きゃっ!?
その瞬間、勢いよく水面から跳び上がると大きく口を開けてアイラへ襲いかかった。
アイラ!
あまりに突然の出来事に、反射的に駆け出したが間に合わない──そう思った。
ガチッ──
スマイル
…危機一髪。
…スマイルがすぐそばにいてくれてよかった。
素早く口の中にハッピーエンドを差し込んだスマイルが、アイラの前へ出た。
スマイル
アイラ、後方へ退避。
──ガチガチガチッ─!
???
シャアッ…!
アイラ
ス、スマイル様…
スマイル
うっ…かなり鋭い…歯…
顎の力と歯並びの構造を見ると…沿岸の上位捕食者、「サメ」…!
サメ
ガアァァ―!!
スマイルの言葉が終わると同時にサメが咆哮を響かせ、顎へぐっと力を込める。
スマイルが素早く飛び出してくれたおかげで、二人は無傷で済んだものの…
鉄さえ噛み砕きそうな、その凶悪な顎はハッピーエンドの外装すら、容易く噛み砕いてしまいそうだった。
ルナ
スマイルちゃん、アイラちゃん!
ルナはそこにいて!
タァッ──!
全力で駆け出し、海の中にいる二人へ一直線に向かう。
ルナ
だ、団長!?どうするつもり!?
二人へ近づくにつれ、サメの圧倒的な巨体が視界いっぱいに広がりその規格外の大きさを嫌というほど思い知らされた。
スマイル!
私はスマイルが構えるハッピーエンドに力を加えそのまま、サメへ押し込んだ。
大きく開いた顎も、触れただけで切れそうな鋭く頑丈な牙も目の前で、より鮮明に映し出された。
サメ
ガアァァ―!!
興奮したサメの咆哮がさらに大きくなるにつれ、背筋に冷たいものが走った。
ルナ
…待って。そんなはず、ない…
浜辺にいたルナの、驚きを隠せない呟きが聞こえた。
スマイル
でも…フローラの沿岸に生息するサメは、人を襲わない個体のはず…
サメの生態とは異なる、新たな個体を確認…
スマイルの戸惑いを帯びた声が、耳元に届いた。
サメの特性といえば…
そうだ…!
サメの弱点は「鼻」で、追われた時は迷わず強く打って隙を作って逃げろという話を聞いた記憶がふっと頭をよぎった。
サメ
ガアァァァ―!
スマイル、アイラ…
走れ──!!
ドガッ──!!
サメ
シャッ!!
ザブンッ──!
鼻先を強打されたサメは大きくのけぞり、盛大な水しぶきを上げた。
その隙を逃さず、私はスマイルとアイラの手をつかむと全力で陸へ駆け出した。
熱く乾いた砂浜を再び踏みしめた頃になって、ようやく我に返り周囲の状況を見渡す余裕が生まれた。
ルナ
みんな!大丈夫!?
スマイル
危険だったけど、無事。
フローラの沿岸に、人間に敵意を示すサメの個体が存在。事実として確認された瞬間。
アイラ
はい、団長様が助けてくださったおかげで助かりました…
サメ
シャア…シャー…!
シャァァ…!
…なんとなくこっちを睨んでるような気がするけど。
アイラ
さ、さすがに陸まで追ってきたりはしませんよね…?
ルナ
そんなにこっちを睨んでもダ~メ。陸には上がってこられないんだから。
サメ
シャ…!!
じたばた──
サメ
シャーーー!!!
ルナ
うわっ!?なんだあれ!!
スマイル
サメは本来、水中でしか生きられない生き物。陸へ上がるなんて不可能…
だが、すっかり頭に血が上ったのか、そのサメは私たちを睨みながら背びれを支えに、ずりずりと砂浜を這い上がり始めた。
スマイル
想定外の事態…!!
アイラ
そ、そんな…あり得ません…!
ルナ
今はそんなこと言ってる場合じゃないよ…!
サメ
シャー…!
走れ!
やがて砂浜にも慣れてきたのか、サメは尾びれを器用に振りながらまるで海を泳ぐかのような勢いで私たちを追いかけ始めた。
走れぇー…
…
ルナ
…アハハ…思ったより、そんな速くないね?
やっぱ陸だからかな〜。
ルナの言うとおり、陸へ上がったサメは、その巨体ゆえ思うように身動きが取れないのか、私たちへ素早く迫ってくることはできなかった。
むしろ、じりじりと後ずさりしても、十分距離を取れるほどだった。
サメ
シュー…シュゥゥー…
サメが懸命にこちらへ近づいてくるたび空へ突き出た白いお腹がぷるん、ぷるんと揺れる。
その様子を、スマイルは興味深そうに観察していた。
スマイル
…人間に対して攻撃性を示す。さらに、水中だけでなく、陸でも呼吸と活動が可能。
そして、一般的なサメとは異なり、「極めて重量がある」と予測。総合的に判断した結果…
結論。この個体は、未確認の新種のサメである可能性が高いと推測。
その体格と重量、さらに陸上でも生存可能であるという特徴を踏まえ…
正式な発表があるまで、本個体を「ブタザメ」と仮称。
豚サメ(?)
シャッ!?
アイラ
た、確かに…!どおりで普通のサメよりヒレが短いと思ってましたが…
「ブタザメ」だから、そうなのかもしれませんね…!
豚サメ
…シャア…
ま、待って…
なんだかあのサメ、余計に怒ってる気がするんだけど…
ルナ
ちょっと!二人とも、いい加減にしなさい!「ブタザメ」なんて!
ようやくルナが大人らしく、たしなめてくれるのかと思いきや真面目な顔で続けた。
うんうん、ブタなんて呼んだら…
ルナ
スマイルちゃんの説明だと、海の中では「サメ」、陸に上がったら「ブタ」なんでしょ?
だったらちゃんと呼ばなきゃ。「ブタ」って!
…
豚
……
…………………………
あのさ…その…
私が代わりに謝るから、機嫌を直して──
豚(サメ)
ガアァァーー!ガオォォ!!
走れぇぇぇ!!
すっかり頭に血が上ったブタザメは、全身をくねらせながら全速力で砂浜を駆け抜け、すぐ後ろまで迫ってきた。
ルナ
うわあ─ッ!なんであんなに速いのぉ!?
スマイル
考慮すると、「ブタ」も…思っているほど足が遅くはない…!
ブタの特性を正確に持つサメであることは確実…!
今そんなことを言ってる場合じゃないって!
背後から大きな口を開けて迫りくるブタザメを避けるため私たちも全速力で走り、ブタザメとの距離を必死に広げた。
豚サメ
シャーッ!
アイラ
ひっ…!
アイラ!
ブタザメのスピードは思いのほか速く、遅れを取っていたアイラとの距離は今にも追いつかれそうなところまで縮まっていた。
どうにかしなければ…そう思い、慌てて周囲を見回した時スマイルのポケットに入っているホラガイが目に入った。
…!
私は、素早くスマイルのポケットからホラガイを取り出し、逆の方向へ投げた。
ハンバーガーだ!!
豚サメ
シャーッ…シャア?
口を開けてアイラへ迫っていたブタサメが、飛んでいくホラガイに気づくと本能的にそちらへ視線を向けた。
豚サメ
シャアァァァー!!
次の瞬間、先ほどまでとは桁違いの速さで、反対方向へと駆け出していった…
ルナ
ふぅ…団長のおかげで助かったぁ!どうやったの!?
ブタなら…
ハンバーガーが嫌いなわけないって思ったんだ。
スマイル
…あれは、サメの姿をしたブタだった可能性も考慮。研究の必要あり…

ルナ
うぅ…ここ、いったいどこなのぉ…?
ブタザメの姿が見えなくなったあとも私たちは念のため、震える足を引きずりながらしばらく歩き続けた。
ブタザメだけでなく、アイラの地図を狙う海賊団がいつ追ってくるかわからない…そんな不安があったからだ。
そうして、どれほど時間が経ったのかも知らず、ひたすら歩き続けているうちに日が暮れてしまい、ひとまず疲れた身体を休める場所を探すことにした。
アイラは、休んでいる間に海賊団に追いつかれるかもしれないと、不安がっていたが…
街灯ひとつない暗闇をむやみに進めば、今度は私たち自身が道に迷いかねない。
そして、ほどなくして…
ルナ
団長、こっちこっち!

ルナが見つけたのは、海岸の外れにある、草むらに隠された洞窟だった。
洞窟の奥は海へと続いていたものの、これなら潮風や夜露を十分にしのげる。一晩明かすにはうってつけの場所だった。
アイラ
はい。こんな人里離れた場所にある洞窟なら…海賊団にもそう簡単には見つからないはずです。
スマイル
さすが、野宿経験豊富なルナ。
寝床選びには、優れた知識と経験あり。
ルナ
フフン、でしょ~?
ささ、みんな。ここは自分の家だと思って、ゆっくり休んでね~!明日もたっくさん動かなきゃなんだからね!
ルナの言葉を最後に私たちは、ごつごつとした岩床を寝床代わりに、それぞれ腰を下ろした。
アイラ
…皆様…私に付き合ってくださって、本当にありがとうございます。
スマイル
私たちは依頼を遂行中。そこまで感謝する必要なし。
アイラ
でも…
ルナ
はいはい。そんなことより、早く寝たほうがいいよ~。
スマイル
肯定…私も、そろそろ睡眠が必要…
アイラ
そ、そうですか…わかりました、早く寝ます。
では…おやすみなさい…
眠そうなスマイルとアイラの声が、だんだん遠くなっていく。
ルナ
…
目が闇に慣れてくると、ぐっすりと眠る二人の寝顔が浮かんできた。
ぽっかりと開けた洞窟の入口に、淡い月光が降り注ぐ。そこから流れ込む涼しく湿った潮風が、火照った身体を優しく冷ましていく。
夏の虫たちの合唱と、夜の波音。その心地よい調べが、疲弊した身体を静かな眠りへと引き込んでいった。
ルナ
…団長、起きてる?
闇に沈みかけた意識の底へ、聞こえるか聞こえないかほどの小さなルナの声が、そっと流れ込んでくる。
ようやく喉に力を込めると、かすれた声が小さく漏れるだけだった。
ルナ
…そっか。
…
考えがまとまらないのか、長く続く沈黙の合間を穏やかな波の音だけが静かに満たしていた。
寄せては返す波音に、私の意思とは関係なく、まぶたは重くなっていく。
ルナ
…
ねえ…あの時、アイラちゃんがホラガイを拾った後ってね…
本当なら、普通に浜辺でのんびりして、近くの宿を取って一晩過ごすはずだった…そういう運命だったの。
でも、わけわかんないサメが現れて、突然アタシたちを襲ったせいで…
今こうして…予定にもなかったこの洞窟で野宿することになっちゃったでしょ?
…もちろん、奇跡みたいな確率で起きた例外の出来事だったのかもしれない。
それでもね、団長…
…
…今回も、バカみたいな考えなのかな?
でも…あんなふうに、必死になってる姿を見たらアタシだって、信じてみたくなるよ。
それに、今回は…団長もいるじゃん。
だから、もしかしたら…
洞窟の中を満たすのは、ひんやりと湿った潮風と、穏やかな波の音そして、リーン…と鳴く夏の虫の声。
ルナ
…うん。「もしかしたら」…
…そして、その夜なかなか眠れなかったのか誰かが寝返りを打つ音だけが、いつまでも響いていた気がした。
ストーリーおよびイラスト © Studio B-Side。非公式の閲覧用アーカイブです — お問い合わせやご要望はサイトについてをご覧ください。
